女神様に安全な町に一番近い森の中に扉を作った、と言われ、俺達は神殿から出て、町に向かって歩き始めた、のだけれど。
「重い……まだ何分も歩いてないけど、重くてきついぞ、これ……」
ついそう口にしてしまうほど、装備や剣が重く感じられる。
「女神様の加護っていうのがなくなると、こんなに大変なんだなぁ……」
「初心者同等」がこれか、と思うと、先が思いやられた。 俺の言葉が呼び水になったようで、イーリスも
「盾で肩が凝ってきたわ」
と言い出した。
「とにかく急いで町に行って、軽い装備に変えないとな。この際、丈夫さは二の次だ」
槍が重く感じられるのだろう、マキアも少し疲れたような声で言う。
あれ、グレイスとベルが静かだな、と思って振り返る。
俺と目が合ったグレイスは、
「杖に魔力を吸われすぎて疲労が……申し訳ございません」
と疲れ切った顔をしているし、ベルに至っては、真顔で、無言だった。
「ベル、大丈夫か……?」
「うん……そういえばボク、塔に入った頃は本当に、すっごく体力なかったんだよね……エレメントに助けてもらってカバーしてたんだけど。回復薬がないのに、エレメントを呼んで魔力を消耗するわけにもいかないから……がんばる。でも喋るだけで疲れる気がするから、しばらく黙るね」
「喋るだけで……?」
その割りに長く喋っていたように思うけれど、声音は確かに疲れ切っていたので、ツッコミを入れるのも野暮かと頷いておいた。
「女神様は……まぁ、大丈夫か」
「あら、心配してくださらないのですか?」
「神様なんだから平気だろう?」
俺達はできるだけ無駄なことをして体力を消耗しないよう、黙々と歩き続ける。
だが、そんな俺達の状況など関係なく。
「グガガッ」
「グ、グ……」
モンスターの群れは、現れるのである。
俺達はそれぞれ武器を構える。
相手は小型の人型モンスター。俺達の世界で言う、ゴブリンに似ているが、もう少し小さい感じもする。それが、数体。
群れであるかもしれないことを考えると、追加で増える危険性はある。だが、慎重にいけば問題なく倒せるだろう。
俺は
「とりあえず、慎重に!」
と声をかけて走り出した。
ゴブリンっぽいモンスターは小さく、確実に仕留めるために、俺は剣を下から上に振り上げようとした。
が、剣がひどく重い。
モンスターに当て損ねる、ということはなかったけれど、体重を乗せきれなかったために仕留められなかった。
「くっ……! これが生命力以外全部1の実力か」
俺は歯噛みしながら体勢を整えようと一旦離れる。
入れ違いにイーリスとマキアが前に出て、俺の攻撃に怯んだモンスターをそれぞれ1匹ずつ倒す。
「うぅ……えいやっ、エレメント、お願いー!」
ベルも何とか腕を振り上げると、地中からエレメントを呼び出して加勢してくれた。
俺達は、1撃当てては間合いを測りつつも少し休み、向こうからの攻撃をいなして反撃、またちょっと警戒をしつつ休みと、普通なら考えられないような時間をかけてモンスターの群れを撃退した。
最後の1匹を俺が倒して、戦闘終了。
動き回っていた俺とイーリス、マキアは、肩で息をしていたし、エレメントを召喚して助けてくれたベルも
「魔力切れた……」
としゃがみ込んでいる。
「戦って、休んで、なんて間抜けな戦闘、初めてだなぁ……」
何とか息を整えたマキアが苦笑いしていた。
グレイスが体力を回復する魔法をかけてくれているが、
「全快……はしないと思います、申し訳ありませんが」
と謝罪する。
そこに、女神様が
「それでは、私から加護を与えましょう。グレイス、手を」
そう言って、グレイスの手をそっと握る。
「あ……魔力が、回復しましたわ……」
「今、私がお手伝いできるのはこのくらいです、皆様を召喚するのにかなりの力を使ってしまいましたから……」
「いえ、助かりました」
グレイスはにっこりと笑って、それから俺達に体力回復魔法をかけ直す。
俺は、温かい光を浴びて、疲れた身体が回復していくのを感じる。
何はともあれ、体力が回復した俺は、改めて思った。
「装備、早く買い換えたいな」
俺がそう言うと、全員が、体力は回復したものの、精神的な疲れを顔に乗せて頷いた。