「う、うーん……?」
「ジーク! 起きなさい!」
ぱん、と頭に衝撃が走る。
「うわあっ!」
驚いて起き上がると、他のみんなもイーリスに起こされて、ううん、と伸びをしたり、目元を擦ったりしているところだった。
「お、おはよう、ございます……」
「はい、おはよう。朝ご飯にするわよ」
「ああ……」
昨日の残りの肉が、小さくなった焚火の上で温められている。
それからリオンが昨日の夜に食べたのと同じ木の実を分配していた。
「リオン、また木の実採りに行ってきてくれたのか」
「うん、みんなより少し早く目が覚めたから……」
「……それって、ちゃんと眠れてないんじゃないか? 俺と話をして遅めに寝て、見張り番をして、早めに起きて、って……」
「そんなことないよ、ちゃんと眠った。さ、食べよう」
肉と木の実で朝食を済ませた俺達は、焚火や食事の後始末をする。
そして、岩場の攻略に取り掛かることにした。
岩場は大きな岩が大きく、岩が崩れるのを警戒し、足場や手を乗せる場所を確保しながら進むので、頂上に着くまで時間がかかる。
途中に狭い平地があればそこで軽く休憩して、水分補給をしてまた登る。
「皆さん、もう一息ですよ! 頑張ってください!」
女神様は……ふわふわと浮かんで移動していた。
楽そうで、ちょっと羨ましい。
「ひゃっ!」
「グレイス!」
グレイスが石に足を取られて滑り落ちかけたのを、イーリスと俺が腕を掴んで止める。
「も、申し訳ございません、ジークさん、イーリスさん……」
「気にしなくて良いわよ。それより、どこか怪我はしてない?」
「ええ、大丈夫ですわ」
「グレイス、その杖、預かるぜ?」
「ありがとうございます、マキアさん。甘えさせていただきます」
俺達は協力して足場を作りながら、岩場の頂上に辿り着く。
「とう、ちゃーく!」
一番乗りぃ、とベルが両手を挙げる。
俺もその後に続いて、平坦な頂上に立つ。
岩場の頂上から視界が開けて、火を噴く山が見えた。
「あの山の中腹に、穴が見えるだろう? あれが火炎洞窟の入り口だよ」
「すごいな……ずっと噴火しているのか。それに、山の周りを溶岩が流れてる」
「熱気がここまで届いてるわね。ちょっとルートを間違ったら生きて帰れなさそう」
「うん、だから近づくのは大変、に見えるんけれど、ほら、あそこは常に溶岩に浸かってない安全な道なんだよ。あそこを通れば中に入れる」
俺達はリオンの説明をうんうんと聞きながら、火炎洞窟の入り口の場所を確認する。
「そんなら、ここで一旦休憩して、一気に火炎洞窟に向かおうぜ」
マキアの提案に頷いて、思い思いの岩に寄りかかったり、水を飲んだりと休憩を取る。
それから、火山の方に向かって出発した。
※※※※
「うう……きもち、わるい……」
火炎洞窟に突入し、モンスターから逃げたり戦ったりしながら奥に進んだ俺達は、リオンの案内で闇の遺跡に通じる扉に到達した。
門番と思われるモンスターが俺達の行く手を阻んだが、それも苦戦しながら倒し、火炎洞窟と闇の遺跡を繋ぐ通路を進み始めた、のだが。
「ベル、休憩するか?」
「ううん……さっきも、休憩した、ばっかり、だし……」
ベルが、闇の遺跡に近づくにつれて、目に見えて体調を崩していった。
顔色が悪く、呼吸が乱れているし、目も少し虚ろで、ふらりと倒れかけては慌てて自分で姿勢を直している。
俺達が交代で支えて、何とか真っ直ぐに歩いているというような状態だった。
「ベル、つらそうね……」
「うん……ボクって召喚士だから、自然の力を受けやすい体質で……だから、ここ、きついよ。地面も植物も岩も、この辺りで貰える力って、淀んでて、気持ち悪い……」
「魔王の力の影響ですね……ベル、もうしばらくしたら、また回復の加護を与えられますから、闇の遺跡の前まで頑張ってください」
「うん……」
「ベル、背負うか?」
「ううん……マッキーも、山登りした、し……ボクを背負ってるせいで、戦いにくいって、言われたくないし……」
ベルは深呼吸すると、少し足取りが危なっかしいながらも、自力で歩き出す。
俺達も、ベルを見守りつつ先に進む。
何とか黒く大きな扉の前に到着すると、ベルはへろへろとしゃがみ込んだ。
「うう、魔王の力が強すぎるよ……気持ち悪い、魔王なんかきらぁい……」
「ベル、よく頑張りましたね。さあ、加護を」
女神の手から柔らかい光が出て、ベルの呼吸が落ち着いてくる。
「いかがですか……?」
「えへへ、ありがと、女神様」
「ベルは、ここで待ってるか? 闇の器を回収したら、迎えに戻ってくるから」
俺がそう言うと、ベルは少し考え込んでいたが。
「ううん……、ボクも行くよ。魔王の封印の旅をしてたら、これからも、こういう場所に行かないといけないんでしょ? 一人だけ休んで待ってるなんて、何のためにここにいるのか分からないよ……」
「ベル……。分かった、じゃあ、みんなでゆっくり進もう」
「そうね。こういう遺跡だと最深部に一番大事な物があると思うから、焦らないで行きましょう」
俺達は黒い扉を開くと、闇の遺跡に突入した。
闇の遺跡は暗いのだが、どこかから光が入ってきているのか、それとも遺跡の壁や床の材料自体が少し発光しているのか、足元が見えないほど暗くはない。
「グルルル……」
入ってすぐ、小型のモンスターが俺達の前に立ち塞がる。
「俺が行く、みんなは下がって」
「ジーク、無理はしてはいけませんよ」
「ああ」
薄暗くてモンスターの動きが読みにくい。
だが、モンスターの方から飛び掛かってきたのを剣で横に切り払う。
そして怯んだところに突きを喰らわせようと突進すると、モンスターは驚いたように逃げていった。
「……よし。奥に進もう」
足音が遠ざかったのを確認して、俺達は更に進んでいく。
「ふう……ふう……っ」
ベルの呼吸がまた荒くなってくる。
もはや、イーリスに腕を掴まれてようやく立っているような状態だった。
「ねえ、ベル、つらかったらそう言って良いのよ?」
「だいじょぶ、だもん……」
「……ったく」
あくまでも自分で歩くと意地を張るベルを、マキアが引っ張り上げるようにして背負う。
「このパーティは遠距離攻撃ができる奴が2人しかいないんだ、お前さんの召喚術、頼りにしてんだから、あんまり無理してぶっ倒れるようなことすんなよ?」
「……マッキー……頭打った?」
「べーるー?」
「えへへ、怒らないでよぉ。ありがとう、マッキー」