– 異世界に召喚された英雄たちが紡ぐ物語 –

  1. 小説

8.「初めてのクエスト」Ⅳ

そんな感じで、俺とグレイス、それと見張り役の女神様で、必要な分のフラットルを狩ることができた。

「……こんなものかな。これだけあれば、向こうがフラットルを狩れてなくてもクエストは完了できるよ」
「お疲れ様でした。ジークさん、そろそろイーリスさん達に合図を送ってもよろしいでしょうか?」
「あぁ、そうだな、もう結構時間が経ってるし……ちょっと、お互いの状況確認したいな」

 グレイスはこくんと頷いて、シャインレーザーを上向きに発射する。
 そして、女神様と3人で最初に作戦会議をした場所まで戻った。
イーリス達の方が先に戻って来ていて、足元にはフラットルが何体か置かれている。

「どうしたの? 狩りが上手くいかなかった……わけじゃないみたいね? むしろ、順調だから集合かけたってところかしら」

 イーリスが、俺達が3人がかりで運んできたフラットルを見て笑顔になる。

「見て見てー、ボク達もいっぱい狩れたよ!」

 ベルが機嫌良く手を振っている。

「もしかして、必要な分の倍くらいあるんじゃねぇか?」
「俺達だけで規定数と同じだけ狩ったんだけど」
「そりゃこっちもだ。2倍か……余った分って受付で換金できんのかね、どっか買い取りしてくれる場所とか紹介してもらって……」

 マキアと、フラットルを数えながら相談していたが。
 マキアの背中越しに、大きい何かが動くのが見えた。
 大型モンスター、ではないが、小型でもない。
 しかし、みんな、狩って来たフラットルに注目していて気付いていない。

 ――俺が何とかしなくては!

 俺はそれで頭がいっぱいになって、1人で飛び出していた。
 女神様がかけてくれた加護の効果が切れてきたのか、少しずつ周りが見えにくくなってきたが、動いているものは追える。
 俺が向かってきたのを見て、俺よりも少し大きいくらいの「何か」も姿を現した。
 アヴァベルだったら、リーフリザードと呼ばれているものとそっくりな、頭の大きいトカゲっぽいモンスターだった。

「お、りゃあ!」

 剣を振り抜いて、リーフリザードの胴体を斬り付ける。
 アヴァベルだったら、それだけでリーフリザードの1体くらい倒せたのだけど、流石に今は無理だと分かっている。
 しかし、何度も斬り付ければ、そのうち耐えきれずに倒れるはず。
 大きな頭を活かした突進を避けて再び突っ込もうとすると、

「ちょっと、1人で何してるのよ!」

 とイーリスが俺に並んだ。
 相手が2人に増えたリーフリザードは、どちらを相手にすれば良いかと迷う素振りを見せる。
 その隙を逃さず、俺とイーリスはリーフリザードの首を狙って剣を突き刺す。
 リーフリザードが耳障りな叫び声を挙げているところに、ベルのエレメントが突進してリーフリザードが引っ繰り返った。

「さぁて、お兄さんが美味しいところはもらおうかね」

 引っ繰り返ったリーフリザードが起き上がれないうちに、マキアがとどめを刺す。
 神殿で戦ったアウンガヘルと比べたら遥かに小物のリーフリザードだが、やっぱり今の実力では倒すのに手古摺ってしまった。
 夜目が利かなくなってきた、ということもあるのだが。

「まあ、リーフリザードそっくりですわね」

 グレイスが俺達に体力回復の魔法をかけながら、今しがた倒したモンスターをまじまじと見る。

「リーフリザードって、食べられるのでしたか?」
「ええと、皮を剥いで焼けば……?」
「おい、ジーク」

 俺が、グレイスの質問に答えていると、マキアが割って入ってくる。

「何だ、マキア……怒ってる?」

 マキアは、すごく真剣な顔をして俺を見ていた。

「あぁ、ちょっと怒ってるぜ。どうして、オレらに声をかけて出て行かなかった? もっとでかいモンスターだったらお前の身が危なかったかもしれないんだぞ」
「それは……」

 俺が動かなくては、と考えて、それで頭がいっぱいになるのは俺の悪癖、なんだろう。
 前の仲間も、それで何度も置き去りにしたことを思いだした。
 俺は結局

「咄嗟に……」

 としか言えなかった。俺の言葉に、マキアは、はああ、と溜息を吐いた。

「んん、まあ、前衛がジーク1人のパーティだった、っていうならああいう動きが身についてるのもガミガミ言わねぇけどな」

 マキアが矛を収めた気配を感じて、イーリスが

「でも、これからは私も前衛にいるんだから、パーティとして声をかけて動いてよ」

 と釘を刺してくる。

 俺は、気を付ける、と言うくらいしかできなかった。

 ■

 フラットルの皮を剥いで、毛皮を町に運んで、クエスト受付が閉まる前にクエスト完了報告を済ませる。
 受付の女性は、初心者アピールをしてクエストを持って行った俺達が野宿せずに戻って来たことと、必要な数の倍のフラットルの毛皮を持ち帰ったことに驚いていた。
 余ったフラットルの毛皮は自分達で何とか売りさばくしかないかもしれない、と思っていたけれど、もう夜なので市場も閉まっているから、急いで金が必要なのであればクエスト受付の方で一律の値段で買い取るという有り難い申し出もあった。
 毛皮の美しさや色などによる価格の変動を考慮しない、全て美品の毛皮であるという「完品」としての引き取りになるが、と言われた。しかし、まとめて引き取ってもらえれば、クエストの達成報酬と合わせて全員の装備や薬を揃えた上に、安い宿であれば泊まることも可能だ。

 ということでフラットルの毛皮を金に換えた俺達は、町で一番安い宿に寝床を得ることができた。

「はぁ、つっかれたなぁ。異世界召喚直後にアウンガヘル戦、森を抜けるために戦ってクエストでも戦って、この連戦は老体のお兄さんには堪えたぜ」
「マキア、老体ってほどの年じゃないだろ?」

 俺はマキアと同室だ。
 女性達は、4人同室になっている。
2人ずつに分かれるか全員一緒という選択肢で、俺とマキアは2人ずつで良いんじゃないかと言ったんだけど、節約できるところは節約して明日の買い物に回したいと、当の女性達から強固に反対された。
 女神様、姿を見えなくできないのかな。普通の宿に女神様を泊めるなんて……いや、あの女神様だから、自分も旅の仲間扱いされたい、って言いそう。
 重い装備を外して一息ついていると、帽子を脱いだマキアが

「……ジーク」

 とやや躊躇った感じで話しかけてきた。

「何だ?」
「さっきから大人しいけど、さっきはちょっときつく言いすぎたか?」

「い、いいや、そんなことは……悪いのは、俺だし……」

「お前さん、パーティを組んだ経験はあるんだろ? アウンガヘルと戦ったときも、森の中でも動きは悪くなかった。ただ、前衛がお前さん1人のパーティだったんなら、これからは2人になるんだから、自分だけが突っ込まないといけないって無茶はするなよ? というか、前衛が1人でも、パーティの仲間にはちゃんとモンスターがいるって伝えないとだめだろ」
「……ああ」
「お前さんなら、すぐに今のパーティでの連携もできるようになるさ。……何か、お前さんが気になることがあるなら、話聞くぞ?」

 マキアが、俺を励ましてくれているのも、心配してくれているのも分かる。
 だけど、俺は協力し合うパーティという関係を作るには欠点がある、なんて、恥ずかしさが先だってしまって、言えない。
 仲間がいるにも関わらず全部自分で何とかしようとした自分勝手な行動で仲間を庇ったつもりになってしまい、その挙句誤解されて置き去りにされた経験がある、なんて。
 マキアや、今は別室のみんなは、自覚しているなら直せるだろうと言ってくれるかもしれないと思ったが、そうでなかったら?

「……無理に言わなくても良いけどな、とりあえず、早めにオレらに慣れてくれよ」

 俺が考え込んでしまったのを察して、マキアは話を切り上げてくれる。

「あぁ、これから一緒に魔王を封印する旅をするんだし、……気を付ける」

 俺がそう言うと、マキアは、あぁ、と頷いて自分のベッドに入る。
俺もマキアに続いて床に就いた。

 気を付けないと、と何度も自分に言い聞かせているうちに、瞼が落ちた。

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