あぁ、これは内臓がどれか逝った、と俺は変に冷静だった。
コボルトの棍棒を避けきれなかった。
腹部をコボルトの棍棒で殴打された。
俺は棍棒の勢いに逆らわずに、半ば自ら跳ね飛ばされて地面に転がる。
喉の奥から血の味が込み上げて来て、思わず吐きそうになった。
だが、吐くと体力を使うし、匂いで別のモンスターを引き寄せる可能性もある。
俺は無理やり血の味のする唾を飲み込む。
そして、剣を握り直すとコボルトに向かっていった。
「おりゃあっ!」
一瞬だけ固い手応えがして、コボルトの身体が真っ二つになる。
あぁ、もう何体倒したんだろう。
流石に剣を振りすぎて、手の感覚がなくなってきた。
それに、腹がものすごく痛い。棍棒を喰らったのだから当たり前だけど。
このままだらだらと戦闘し続けたら、コボルトに殺されるか、腹部のダメージで死ぬ。
そう確信できるくらい痛かった。
俺は疲労と痛みで小刻みに震える手に力を込める。
そして、突進してくる数体のコボルトを返り討ちにするために最後の力を振り絞って走り出した。
「俺は、こんな場所で死ぬわけに、いかないんだッ!」
必死の思いで剣を振り下ろす。まずは一体。
次の敵を見据えて走り出した、そのとき。
―――たすけて
「……は?」
足が止まりかけながらも剣を振り抜いて一体を倒す。
更に、返しの一撃で次の一体にダメージを与える。
「……幻聴?」
何だ今のは。
いや、幻聴なんか聞いてる場合じゃない、死ぬわけにいかないって今、自分で言ったばかりじゃないか。
「はぁ……ッ!」
―――たすけて
違う。幻聴じゃない。死にたくない俺の心の声でもない。確かに、女の声がする。
―――たすけて
「助けてやりたいのは、ッ、やまやま、だけど! 俺も今っ、それどころじゃ、ないっ!」
声に言い返して、もう一体、モンスターを倒す。
―――助けて、ください
あぁ、俺の方が助けてほしいくらいなのに。そんな、縋るような声で言われては。
―――助けてください
「あぁ、もう! 分かった! 俺がっ、もし、生き延びられたら、絶対に助けるから、ちょっと静かにしてくれ!」
俺は見えない声に向かって本気で吼えた。
それから、次の標的に向かって渾身の一撃を叩き込もうと剣を振り上げながら足を踏み込んだ。すると。
「そんなことでよろしいのですか?」
と、耳元で声がして、……目の前が真っ白になった。