– 異世界に召喚された英雄たちが紡ぐ物語 –

  1. 小説

5.「初めてのクエスト」 I



 女神様に安全な町に一番近い森の中に扉を作った、と言われ、俺達は神殿から出て、町に向かって歩き始めた、のだけれど。

「重い……まだ何分も歩いてないけど、重くてきついぞ、これ……」

 ついそう口にしてしまうほど、装備や剣が重く感じられる。

「女神様の加護っていうのがなくなると、こんなに大変なんだなぁ……」

「初心者同等」がこれか、と思うと、先が思いやられた。  俺の言葉が呼び水になったようで、イーリスも


「盾で肩が凝ってきたわ」

 と言い出した。

「とにかく急いで町に行って、軽い装備に変えないとな。この際、丈夫さは二の次だ」

 槍が重く感じられるのだろう、マキアも少し疲れたような声で言う。
 あれ、グレイスとベルが静かだな、と思って振り返る。
 俺と目が合ったグレイスは、


「杖に魔力を吸われすぎて疲労が……申し訳ございません」


 と疲れ切った顔をしているし、ベルに至っては、真顔で、無言だった。


「ベル、大丈夫か……?」
「うん……そういえばボク、塔に入った頃は本当に、すっごく体力なかったんだよね……エレメントに助けてもらってカバーしてたんだけど。回復薬がないのに、エレメントを呼んで魔力を消耗するわけにもいかないから……がんばる。でも喋るだけで疲れる気がするから、しばらく黙るね」
「喋るだけで……?」

 その割りに長く喋っていたように思うけれど、声音は確かに疲れ切っていたので、ツッコミを入れるのも野暮かと頷いておいた。


「女神様は……まぁ、大丈夫か」
「あら、心配してくださらないのですか?」
「神様なんだから平気だろう?」


 俺達はできるだけ無駄なことをして体力を消耗しないよう、黙々と歩き続ける。
 だが、そんな俺達の状況など関係なく。


「グガガッ」
「グ、グ……」


 モンスターの群れは、現れるのである。


 俺達はそれぞれ武器を構える。
 相手は小型の人型モンスター。俺達の世界で言う、ゴブリンに似ているが、もう少し小さい感じもする。それが、数体。
 群れであるかもしれないことを考えると、追加で増える危険性はある。だが、慎重にいけば問題なく倒せるだろう。


 俺は


「とりあえず、慎重に!」


 と声をかけて走り出した。


 ゴブリンっぽいモンスターは小さく、確実に仕留めるために、俺は剣を下から上に振り上げようとした。
 が、剣がひどく重い。
 モンスターに当て損ねる、ということはなかったけれど、体重を乗せきれなかったために仕留められなかった。
 

「くっ……! これが生命力以外全部1の実力か」


 俺は歯噛みしながら体勢を整えようと一旦離れる。
 入れ違いにイーリスとマキアが前に出て、俺の攻撃に怯んだモンスターをそれぞれ1匹ずつ倒す。


「うぅ……えいやっ、エレメント、お願いー!」


 ベルも何とか腕を振り上げると、地中からエレメントを呼び出して加勢してくれた。


 俺達は、1撃当てては間合いを測りつつも少し休み、向こうからの攻撃をいなして反撃、またちょっと警戒をしつつ休みと、普通なら考えられないような時間をかけてモンスターの群れを撃退した。
 最後の1匹を俺が倒して、戦闘終了。
 動き回っていた俺とイーリス、マキアは、肩で息をしていたし、エレメントを召喚して助けてくれたベルも


「魔力切れた……」


 としゃがみ込んでいる。


「戦って、休んで、なんて間抜けな戦闘、初めてだなぁ……」


 何とか息を整えたマキアが苦笑いしていた。
 グレイスが体力を回復する魔法をかけてくれているが、


「全快……はしないと思います、申し訳ありませんが」


 と謝罪する。
 そこに、女神様が


「それでは、私から加護を与えましょう。グレイス、手を」


 そう言って、グレイスの手をそっと握る。


「あ……魔力が、回復しましたわ……」
「今、私がお手伝いできるのはこのくらいです、皆様を召喚するのにかなりの力を使ってしまいましたから……」
「いえ、助かりました」


 グレイスはにっこりと笑って、それから俺達に体力回復魔法をかけ直す。
 俺は、温かい光を浴びて、疲れた身体が回復していくのを感じる。


 何はともあれ、体力が回復した俺は、改めて思った。


「装備、早く買い換えたいな」


 俺がそう言うと、全員が、体力は回復したものの、精神的な疲れを顔に乗せて頷いた。

 

関連記事

PAGE TOP