– 異世界に召喚された英雄たちが紡ぐ物語 –

  1. 小説

14. 「風の洞窟」


 俺達がリオンを助けたのは、風の洞窟の本当にすぐ近くだったらしい。
 リオンを助けた場所から移動し始めて数分で、ぼんやりと青く光る洞窟の入り口に辿り着いた。

「ここが風の洞窟か……何だか、中から風が吹いてくるような……」

 イーリスやグレイス、ベルの3人は、俺とマキアに比べたら薄着だったり、肌の露出があるので、中から冷たい風が吹いてくるのにひどく寒そうな様子を見せている。

「女神様は、寒くなさそうだな?」
「うふふ、女神ですから」

 女神様は、人智を超える力が働いているおかげか平然としているけれど。
 だが、女性陣以上に心配なのが。

「リオン、こんな寒い場所に、そんな薄着で入って大丈夫なのか?」

 薄いシャツとズボンしか身に着けていないリオンは、見ているだけで寒々しい。

「俺のマントで良ければ貸すけど」

 俺はそう申し出るが、リオンは

「いや、大丈夫だよ。これでも僕は半分とは言え精霊族の血を引いている、案外頑丈なんだ。君達は人間族だろう、人間族は精霊族に比べて身体が弱いから、君達こそ用心した方が良いよ」

 
 と笑って断った。

「それなら、甘えさせてもらおう」
「うん。ここから洞窟の奥までは、僕が案内するよ。ついてきて」

 リオンに先導されて、俺達は風の洞窟に入っていく。

「寒い、ですわね……」

 グレイスがぶるっと震えて、自分で自分を抱き締めるようにしながら腕を擦っている。

「奥に入るほど寒くなるらしいから、気を付けてね」

 しかしリオン自身は、そう注意をしながらも、あまり寒さを感じていないように見える。
 案外頑丈、どころではない。かなり頑丈だ。
 俺も寒さに負けそうで、首元から入ってくる風を防ぐためにマントで首元を一生懸命覆っているくらいなのに。

 だが、リオンがどんどん先に進んで行くので、寒いとためらっている暇はなく、俺達もついていく。
 何故か風の洞窟の中はぼんやりと明るく、灯りが無くても充分に歩くことができた。
 しかし、寒い。
 日の差さない洞窟で温度が低い上に、ずっと風が吹き続けて体温を奪っていく。

「うう……繊細なボクは風邪引いちゃうよ……」

 ずび、とベルが鼻をすすっている。
 イーリスも、面目にかけて、とでも思っているのか寒いとは言わないが、時折ぶるりと震えているようだった。

「ここからもっと寒くなるけど……大丈夫?」

 先頭を歩いていたリオンが、俺達を心配そうに振り返る。

「ええ、大丈夫よ」

 答えたのはイーリスだったが、やっぱり寒さで脚が震えている。
 しかし、大丈夫ではないだろうなどと問答する時間よりも、その分さっさと進んで用を済ませるべきだと思ったのだろう、リオンは頷くと、なだらかな坂を下りて行った。

 やがて、坂が終わり、広い空間に出る。
 この先の道はなさそうで、ここが目的地のようだった。

「ここが、風の洞窟の一番奥だよ」

 リオンは俺達にそう言うと、きょろきょろと辺りを見回している。

 そこは、足元は多少でこぼこした岩場程度で歩くに不自由はなく、天井からはつららのように岩が生えている空間だった。だが、武器庫、なんて見当たらないようなのだが。

「リオン、本当にここなのか?」
「うん、ここが風の洞窟の一番奥だから、僕の聞いた話が正しければここに武器庫に通じる扉がある、はずなんだけど……精霊族は長年、他の種族との戦いを避けて、ひっそりと暮らしてきたわけだから、武器庫も壁の中に埋もれているかもしれない」

 リオンはそう言って、洞窟の壁を手で撫でている。

「リオン、その武器庫って、そんなに人の出入りがなかったのか?」
「少なくとも僕が精霊族の村に住んでいる間は、狩猟目的の木製の武器以外持っている人を見たことが無かったよ。武器庫に入れる価値もないくらい安っぽい武器しか村には無かった。でも、昔は大きな戦いもあったらしいし……」

 俺達は洞窟の壁伝いにうろうろと歩き回って武器庫の扉を探す、が、見つからない。

「そんな馬鹿な……っ、あいつ、僕に嘘を……!?」

 リオンが何かぶつぶつと言いながら歩き回っているのが、冷静さを欠いているように見えて心配になる。

「リオン、落ち着けって。俺達は急かしたりしないから」
「ねぇ、凍えそうだから、ちょっと休憩しようよぉ」

 俺がリオンを宥めようと声をかけているところに、ベルがフードを深くかぶり直しながら入ってくる。

「そうしようか……俺も、指先の感覚がなくなってきてる」

 一生懸命手を擦り合わせたりして暖を取ろうとしているが、この風が止まなくては体温は奪われるばかりだ。

「休憩するなら、風の入り込まない横穴があったと……ああ、あったあった」

 リオンに手招きされて、俺達は横穴に急いで入る。
 そこは風が吹き込んでこないので、ようやく人心地ついた。

 はあ、と力を抜く俺達を、女神様だけがにこにこと見ている。

「これ以上寒かったら武器はもう私の貸してあげるから風の洞窟を抜けるわよ、って言うところなんだけど、絶妙に、ギリギリ耐えられるくらいなのが逆に腹立たしいわね……」
「そうじゃなかったら風の洞窟を抜けて逃げる、なんてこともできないんだけどな。そんなに寒いならオレの帽子でも被っとくか、少しは風除けになるぜ?」
「……気持ちだけいただくわ。マキアみたいに、帽子を落とさず走り回るなんて、私にはできそうにないもの」

 マキアの申し出にイーリスは首を横に振る。
 しかし、帽子があると少しはマシなのか……。覚えておこう。

「せっかくですから、休憩がてら、食事にいたしましょう」

 グレイスが自分の荷物入れを開けて、保存食を取り出す。
 俺達もそれに倣って保存食を取り出した。
 ちなみに俺は、保存食は甘い奴が好きで、町で保存食を買い込むときも優先的にそれを選んだ。

「いただきます」

 いざ食事、と、俺の意識はかすかに甘い匂いのする保存食に向いていた。
 まあ、油断していたのだ。

「キキキッ!」

 そんな、甲高い鳴き声とともに横穴に飛び込んできた小さな影に、荷物入れを簡単に強奪されてしまうくらいには。

「お、俺のアイテムがっ! 非常食、傷薬、ポーション!」

 冒険をする上で、俺の命を助けてくれるアイテムの数々が入った荷物入れを奪われて、俺は慌てて手を伸ばす。
 しかし、手は呆気なく空を切った。

「キキキッ」

 影……アヴァベルで近いモンスターの名前を挙げるならデルビに似たモンスターは、俺を小ばかにするようにパタパタと羽根を動かし、そして横穴から出て行った。

「うわあああ! 待って、せめてポーションは返してくれっ!」

 デルビに、アイテムを選別できるとは思わないが。
 長旅を続けるのに必須の、体力を回復してくれるポーションだけでも、と俺はデルビを追いかけて横穴を飛び出した。

「ジーク! ったく、あいつ、また1人で突っ走ってやがる」
「もう、ジークのドジ!」
「追いかけないと、はぐれてしまいますわ。ベルさん、お食事は後です、行きましょう」
「あぁ、ごはぁん……」
「後でまた食べようよ、ね?」

 後ろから、ごちゃごちゃと声が聞こえる。

 とりあえず、俺はドジじゃない、と、そこだけは反論したかった。
 したかったが……現実問題として、荷物入れをあっさり盗まれたのを見られているので、デルビを追いかけるのに専念する。

「待て……! くそっ、素早いな、あいつ……っ」

 じわじわ、じわじわと距離が開く。
 だが、走っていて身体が温まってきたのでかなり身体は軽くなっているし、デルビがこの洞窟に住んでいるなら、そのうち巣に戻るはず。
 それまで追いかけ続ければ、何とか、取り返すチャンスもある。

「……いや、っ、ちょっと、きつくなってきたかも」

 追いかけ続ければ、と思ったが、よく考えたら今日は朝から移動に戦闘にと、ずっと動きっ放しだ。
 それで更に追いかけっこ。しかも結構空腹。

「うう、きついな……いや、でもあいつをっ、捕まえないと……俺のアイテムが……旅の難易度が……!」

 ぜえ、ぜえ、と荒くなる息。冷たい空気を吸い込みながらデルビを追う。
 と、デルビが急に道を曲がった。

「逃がすかっ」

 力を振り絞って、俺もスピードアップして道を曲がる。

 だけど。

「え? あれ……? どこに行った?」

 デルビが道を曲がって、俺が曲がるまで、数秒と間を置いていない。
 けれど、真っ直ぐに伸びる道の先に、デルビの姿を見つけることはできなかった。

「おい、ジーク!」

 ぽん、とマキアに肩を叩かれる。
 そういえば、みんなをすっかり置き去りにしてしまった。
 しまった、周りの人のことを考えられなくなる俺の悪い癖が出ている……今は追いかけっこで済んだけど、本当に気を付けないと。

「ジーク、さっきのモンスターは?」

 追い付いて来たイーリスが、きょろきょろとしている。
 それから、更に少し遅れてグレイス、ベルと、後ろから2人を守るようにリオン、一番最後に女神様がやってくる。

「その、あいつは、見失った……」
「ええっ? 見失ったって、あの荷物入れにアイテム全部入れてたじゃない! 命綱でしょ、どうするの!」
「いや、だって、確かにこっちに来て……はぐれるはずが……」

 俺の心配をして怒っていたイーリスも、道がまっすぐに続いているのを見て、妙な顔をする。

「横穴にでも入ったんじゃねえの」
「ああ、さっきボク達が休憩してた場所みたいな?」

 マキアとベルがぽんぽんと言い合って、また壁を叩き始める。
 俺も、壁の向こうに別の空間がないかと、2人の真似をして壁を叩く。
 すると、壁の一部、だと思っていた物が、ごろん、と転がった。

「あっ、これ、岩か!」

 洞窟だけあって、壁がでこぼこしているから気付かなかった。
 見た目は大きくて重そうなのだが、俺一人でも持ち上げ、はできないが、ずらすくらいは何とかなりそうな感じだった。
 岩を少しずつずらしていくと、今まで見えなかった空間が出現する。

「よ、いしょ……っ、と。これくらい隙間があれば、通れる、か」
「ジーク、この中にさっきのモンスターが入っていったのですか?」
「絶対、とは言えないけど、見失うわけがないような場所で見失ったんだから、こういう場所に入ったんだと……」
「それなら、私に言ってくだされば、岩など通り抜けられますのに。そうしたら、中にいるかどうか確認くらいはできますよ。戦闘は……できませんが」

 ……女神様は、ほらどうですか、と言わんばかりの顔で、俺の横で、岩に腕を突っ込んでいる。
 文字通り、水に腕を入れたときみたいに、消えたり、また出たり。

「そんなことできるのか……」
「女神ですから」

 えへん、とちょっと胸を張っている女神様に、俺はちょっと頭痛を感じた。

「いや、せっかくジークが入口を開けたんだし、みんなで行こうよ、ね?」

 リオンが背中をぽんぽんと叩いて慰めてくれる。
 最初に会ったときはちょっとぴりぴりしてると思ったけど、良い奴だなぁ。

「じゃあ、俺から入るから、俺が逃がしたら誰か捕まえてくれ」

 俺の荷物入れなんだから、俺が先頭に立って取り返しにかかるのが筋だろう、と俺は一番最初に岩と横穴の間に身体をねじ込む。
 横穴に全身入ると、穴、と言うよりは別の道に入ったと思えるくらい、奥深くに続いていることが分かる。

「デルビはこの奥かな……」

 
 風が止まっているせいか、空気がじめじめとしていて、足を滑らせないように注意しながら、そろりそろりと進んで行く。
 奥の方で、ごそごそと何かが動く気配がした。

 俺は剣を握り締めて、転倒だけじゃなく足音にも気を付けつつ奥を目指していった。

 

 

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