– 異世界に召喚された英雄たちが紡ぐ物語 –

  1. 小説

7.「初めてのクエスト」 Ⅲ


 クエスト受付で正式にパーティとして登録した俺達は、辺りが薄暗くなり始めた頃にクエストに出発した。
 夜行性の小型モンスター、フラットルを狩って、綺麗な状態の毛皮を持ち帰るのが今回のクエスト内容だ。
 俺達の世界では、フラットルは雪山の地帯にしか出ないのだけど、こちらではそんなこともないらしい。


「依頼票にはフラットルだって書いてあったから、どこまで行かされるのかと思ったけど、町からそんなに離れてなくて良かったな」

「流石に雪山に突っ込めなんてクエスト、俺が断らせるぜ」

「マキアに言われなくても、俺も断るよ……いくら初心者向けとあっても、何の準備もできないのに雪山なんて行ったら死ぬから」

 クエスト受付で教えてもらったフラットルの出現場所は、町にそこそこ近い、山と言うよりも木の多い丘というくらいの緩やかな傾斜のある場所だった。

「あー、ここからだと町が見えるよー!」

 ベルが背伸びをして、遠くを見ている。

「窓から灯りが漏れて、幻想的ですわねぇ」

 確かにグレイスの言う通り、小さな町の灯りが見えて、1枚の絵のようだ。
 まあ、それをゆっくり見ている時間はないわけだが。

「ベル、グレイス、景色はまた今度にして、作戦会議するわよ!」

 イーリスに呼ばれて、2人が戻ってくる。

「さて、夜行性のモンスターを捕まえるには、夜目が利くような魔法をかける……のが定石だけど、私は、グレイスには怪我の治療要員としてぎりぎりまで魔力を温存してほしいわね。リーダーもそう思うでしょ?」

「リーダーは止めてくれよ、そんな柄じゃないから……。
でも、イーリスの意見には賛成だ。
せめてこのクエストを成功させて、町で買い物をするまではグレイスやベルにがんがん魔法やら召喚術を使うのを控えてもらって、ここぞって時に使ってほしい」

「私達が怪我に気を付けて、負担を増やさないようにしないといけないわね」

「あぁ、そうだな」

 やはり前衛担当同士ということで、イーリスとの話は早い。
 マキアが

「そうなると方法は絞られてくるなぁ、たとえば罠を張るとか、誰かが追い立て役、誰かが仕留め役に別れて狩るとか。
魔力をどれほど使うか分からんが、光の出る魔法でモンスターを追い立てて全員で狩るって方法も使えるかね。
罠は時間がかかるから、あんまり期待しない方が良いけどな。ばらばらに探索、も今は止めといた方が良いか」

 と幾つか案を出してくれた。
 

「光を放つ攻撃魔法の中にも、初心者向けの魔力消費が少ない物があります。
それであれば、大して魔力は消費いたしませんわ。灯りで追い立てる作戦は残しておきましょう」

 グレイスに申告され、俺は頷いた。

「ボクのエレメントを囮にすれば、罠にモンスターがかかる確率も上がるかもー?」
「それなら、追い込みの狩りが失敗したときは頼む」

 ベルにそう頼むと、

「ご飯のためだからね、ボクにまっかせて☆」

 と胸をどんと叩いてみせる。

「あのぅ、私から一つ、提案があるのですが」

 輪の中に入りつつも静かに俺達の作戦会議を聞いていた女神様が、すっと右手を挙げた。

「提案?」
「ええ。私の力も時間の経過と共に少しずつ回復しておりますから、短時間であれば、皆様に夜目が利くように身体を変える加護を与えられるかと。
私は狩りについては詳しくありませんが、夜目が利いて、動き回れるようになるのが一番良い、と仰っているように思われます。
それくらいはお手伝いさせてくださいまし」

 にこにこと自分の胸元に手を置いている女神様に、俺は、

「そんなに簡単に女神様の力を借りて良いのかな……」

 としか言えなかった。

「遠慮なさらずに、私もお手伝いしたいと思ってついてきたのですから、できる限り……あら? 皆様、どうなさいました? お口が開いておりますが……?」

 女神様が、俺達の反応を見て、思っていたのと違うという顔をする。

「い、いいや……それなら、頼みたい。早くモンスターを狩って、できれば野宿しないで町に戻りたいから」
「えぇ、承りました。では皆様、私の手から目を離さないように、お願いいたします」

 女神様の手が、ぼんやりと金色に光り出す。
 さっき、この世界の文字が読めるようになったのと同じ要領で女神様から放たれた光が俺達に降り注ぐ。
 

「おお、すげえな、昼間みたいによく見える」

 マキアが自分の目の前で拳を握ったり開いたりしている。
 ぱち、ぱち、と瞬きをするごとに、暗くても物の形や色、大きさが判別できるようになってきて、これならモンスターを追いかけたり戦闘するのに全く支障がなさそうだった。

「これくらい見えるなら、普通の狩りと同じように2組に分かれてフラットルを探して狩っていく作戦もいけるな。1体じゃなくて群れを見つけたら、もう片方の組を呼んで合流すりゃ良い」

 マキアが追加で出してきた案は、昼間の狩りであれば迷いなく選ぶだろう一番オーソドックスな方法だった。
 だが、罠を張ってじっと待ち構えたりするよりはよほど効率が良い。
 

「2組に分かれるなら……俺とイーリスは別の組にした方が良いな」
「ええ、あとは、まあ、適当でいいのじゃないかしら。マキアも後衛ができるし」
「女神様は……?」

「……狩り自体には役に立たなくても、足を引っ張ることはないと思うから……ジーク、よろしくね!」

「お、おう……?」

 前衛という同じポジション故に組を分かれることが決定的な俺とイーリスで簡単に組み分けをして、俺、グレイス、女神様の組と、イーリス、マキア、ベルという組に分かれた。

「グレイス、女神様、よろしく。……グレイス、俺とグレイスだけでフラットル探索をする、くらいのつもりでいこうな」

「えぇ、もちろんですわ」
「私、そんなに頼りにならないと思われてるのですか……」

「いや、女神様は夜目が利くようにしてくれただけで充分だから! あとは俺達、冒険者が頑張ることだから、そんなに落ち込まないでくれよ」

 俺とグレイスが、女神様はいっそこの辺で座って待ってていても良い、と宥めている間に、イーリス達が

「じゃあ、お互い頑張りましょうね。グレイス、何かあったら魔法を使って合図してね、すぐにここに戻るから。こちらに何かあったら、ベルのエレメントが行くわ」

 と言いながら出発していった。

 とりあえず、

「女神様がやる気いっぱいなのは分かるけど、神と名の付く相手に、草むらをがさごそさせたり土の穴を覗かせたりするのはこっちが気を遣うから、俺達と同じようにしなくて良いんだ」

 そんなことを、グレイスと一緒に伝えて、女神様には俺達がフラットルを探している間、別のモンスターの襲撃が無いように見張っていてもらうことにした。

 そんな始まりだったフラットル狩りだが、思った以上に順調だった。

「ジークさんっ、そちらに行きましたわ!」

「ああ、任せろ!」

 グレイスのシャインレーザーに驚いたフラットルが1体飛び出してきて、フラットルが俺に気付いて突進するか戻るか迷う一瞬を狙って首の後ろに剣を振り下ろす。
 今の俺には重く感じられる剣で思い通りの場所に振り下ろすのは凄まじく集中力が必要だったが、無事にフラットルを1撃で行動不能にした。

「よしっ、狙い通り!」

「ジークさん、お見事です」

「アヴァベルでも同じようなモンスターがいたからな、弱点が同じなおかげで楽に戦えるよ。これなら、依頼通りの綺麗な毛皮が獲れる」

「えぇ、文句なしの美品を納められますわね」

「戦闘になって毛皮に傷が付くと、報酬が下がるもんな」

「せっかくここまで来て、報酬が満額受け取れないのは痛いですわね」

 戦闘に持ち込ませず、首の後ろにダメージを与えて1撃でとどめを刺せれば、頭以外の全身の毛皮を綺麗に剥ぐことができる。
 綺麗な毛皮、と指定があったことから、毛皮に傷があったら確実に報酬は減額になる。
 だから、最初の獲物を1撃で倒せるかどうかは狩りの成果を占う大きなポイントだった。
 でも、最初の1体で成功したことで、無収獲で戻る危険性はなくなったと安心していると、少し離れた場所で俺達の様子を見守っていた女神様もぱちぱちと拍手をしてくれた。

「女神様、もう少し狩りを続けるから、見張りを頼む」

「ええ、存分に頑張ってくださいまし!」

「……あぁ、ありがとう」

 何となく、女神様の扱いが分かって来た気がする、といったら失礼だろうか。

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