– 異世界に召喚された英雄たちが紡ぐ物語 –

  1. 小説

13. 「リオンとの出逢い」



「助けてくれてありがとう……本当に、危うく死ぬところだった。君達は僕の命の恩人だよ」


 金髪、と言うよりは山吹色の髪に、同じ色の瞳を持つ、俺と同じくらいの年の男が深々と頭を下げる。
 頭を下げる、を超えて、地面に頭を擦り付けそうな勢いで何度もお辞儀している。


 何故俺達が彼にこんなにも感謝されているかと言うと、話は少し前に遡る。


 精霊族の生き残りを探して風の洞窟に向かっていた俺達は、野獣族と、彼らに追いかけられていた男に出くわした。
 咄嗟に彼を庇って、俺達は野獣族と戦闘になった。


 そして、野獣族を追い払った俺達は、ずっと逃げ回っていて疲れ切っている男に手を差し伸べた。


「もう大丈夫だ」


 俺がそう声をかけると、男は小さく頷いて立ち上がる。
 それから深く頭を下げて、


「助けてくれてありがとう」


 と言った。


「いや、君が無事で良かったよ。君が……精霊族の生き残り、だよな?」


 見た目からして野獣族ではないし、俺達とそう変わらない姿に見えるが、人間が一人でこんな場所で無意味に野獣族に追いかけられているなんて考える方が不自然だ。
 だから自然と、俺達が探していた、滅ぼされた精霊族の村の生き残りだろうと思ってそう尋ねてみる。
 男は少し警戒するように俺達を見る。
 しかし、さっき助けたのもあって信用してくれたのだろう、少し間をおいて頷いた。


「そう、だよ。僕は、静寂の森の中にある、いや、あった、精霊族の村の生き残りだ。名前はリオン」
「俺はジーク。ここにいる女神様に召喚されて、別の世界から来た冒険者だ」
「ジーク……。君達は……どうして、僕が精霊族の生き残りだって分かったんだ」
「俺達は、魔王を封印する方法の手がかりを求めているんだ。それで、魔王が堕落する前からこの世界に存在する精霊族なら何か知っているかもしれないと聞いて、精霊族の村に行った。その村は野獣族のせいで滅びてしまっていたけれど……生き残りがいると聞いて、探していた。そこで、野獣族に追われている君を見つけたから、君がそうなんだろうと思ったんだよ。俺達は魔王の手先ではないから、安心してくれ」


 男、ことリオンが名乗ってくれたので、俺も名乗り返す。それから、警戒心をもっと解せるように、どうして精霊族の生き残りを探していたのかも、詳しく伝える。
 するとリオンは、え、と小さく声を上げた。


「そうか、君達が、あの……」
「リオン?」
「いや、何でもない」


 リオンが何か言ったと思うのだが、俺が訊き返すと何でもないと首を横に振る。


「ところで、そちらの皆さんの名前を聞いて良いかい?」


 何となく、誤魔化されたような感じもするのだが、確かにまだ俺しか名乗っていない。
 俺は、リオンからみんなが見えやすいようにそっと立ち位置をずらした。


「私はイーリスよ。ジークと同じ世界から来たの」
「オレはマキア。ジークと以下同文。というか、ここにいる全員、女神様以外は同じ世界の出身だぜ」
「マッキーが言ってくれたからもう省略で、ボクはベルちゃんだよー」
「同じく、グレイスですわ。よろしくお願いしますね」


 一人ずつリオンと握手していき、最後に女神様が


「私が、彼らをこの世界に召喚した、均衡の女神です」


 と名乗り、優雅に一礼した。


「そうか……皆さん、本当にありがとう」


 リオンがもう一度頭を下げる。


「さて、のんびりしている暇はないわよ」


 少し和んだ雰囲気を引き締めるように、イーリスが俺達を見回す。


「ここでのんびりしてたらまた野獣族が戻ってくるかもしれないわ、どこか安全な場所……は無くても、少なくともここから離れた方が良いと思うの」
「それなら、このまま進んで風の洞窟を抜ける、というのはどうだろう?」


 リオンがそう言い出したので、俺は


「やっぱり、風の洞窟の方が安全か?」


と尋ねる。


「安全は保証できないけど、戻っても、また静寂の森の魔法と格闘することになるよね? それに、まだ野獣族が僕を探して精霊族の村の近くをうろついているかもしれない。それなら風の洞窟の方がまだ楽かな、と……。それに、風の洞窟の中に、精霊族の隠し武器庫があるんだ。そこに武器や防具を取りに行きたい。洞窟を抜けるルートを一度外れて、最奥の行き止まりまで行かなければならないから、大回りになってしまうけど……」


と頼んでくる。


 そういえば、リオンは普通のシャツとズボンという軽装だった。
普段通りの生活をしているところを野獣族に襲撃され、そのまま逃げてきたのだろう。
それなら、装備を得るために風の洞窟に向かいたいのも理解できる。


「リオンは、今まで武器も持ってなくて、よく逃げ続けられたな……」
「えっ、ああ、そうだね……運が良かった、それだけだよ」


 リオンは何故か、すっと俺から目を逸らす。
 何か悪いことを言ってしまっただろうか、と思ってリオンを見詰めるが、リオンはすぐに


「それで、風の洞窟に向かう、ということで良いかい?」


と話を変えてしまった。


「まあ、こんな軽装で森だの洞窟だの連れ回すわけにいかねぇし、かと言って町に戻って買い物をする余裕もないわけだし、洞窟ン中に武器庫があるなら、ちょっとくらい遠回りは問題にならねえさ」


マキアが軽い調子で言い、俺達は、風の洞窟を抜けることに決めた。

 

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