– 異世界に召喚された英雄たちが紡ぐ物語 –

  1. 小説

16. 「目指す指針とまぼろしの町」

  俺達の仲間になったリオンは、まず、俺達に魔王を封印するために必要なアイテムの存在を教えてくれた。
それによると、光の器と闇の器というものがあり、闇の器には魔王の力が込められている。だから、闇の器を破壊すれば魔王は弱体化する。弱体化した魔王であれば、人間であっても倒すことができる。
ということで、俺達は闇の器を求めて出発することにした。


「闇の器がある闇の遺跡……か」
「うん、これから、闇の遺跡に入るために、火炎の洞窟を目指すよ」
「どうして火炎の洞窟に? 闇の遺跡に真っ直ぐ向かうことは不可能なの?」
「もちろん、地上から歩いて闇の遺跡を目指す道もあるにはあるんだよ。でも、危険な山岳地帯を通らなければならなかったり、凶悪なモンスターが出没したりするから、命の危険に晒されやすい。それに、野獣族以上に好戦的な悪魔族がうろついていることも多いと聞いたことがあるんだ」
「安全な火炎の洞窟側から迂回して闇の遺跡を目指す、ということでしょうか?」
「迂回する、とも違う。火炎の洞窟の奥に、闇の遺跡に通じる道があるらしい。僕も実際に行ったことはないし、急ぎの旅ではあるけれど、確実に魔王を封印することが最優先、そのためには道中ではできるだけ安全に……まぁ、火炎の洞窟も絶対安全ではないけれど、闇の遺跡に直接向かうよりは危険性は下がるはずだから、本当にそんな道が存在するならそちらから向かいたい。火炎の洞窟の奥に通路がなかったとしても、今度はグレイスが言ったように迂回して闇の遺跡を目指すよ、その方が安全だ」


リオンにそう言われて、俺達は火炎の洞窟の方に移動し始める。
風の洞窟の近くは文字通り風が常に吹いていて涼しかったが、風の洞窟を離れ、火炎の洞窟に近づくにつれて少しずつ暑くなってきた。


「何か、植物の種類とか変わった気がしない~?」


ベルが面白そうな声を上げ、俺も釣られて周りを見る。
確かに、葉の大きな、アヴァベルのリゾート階層で見たことのあるような植物が増えてきている。
気付けば、じんわりと汗を掻くくらい、辺りの気温も上がっていた。
俺達の向かう方向に火山があり、時々煙が噴き出している。
この暑さは、あの火山の影響もあるのかもしれない。


「ちょっと、暑いな」
「風の洞窟は寒かったし、寒暖差で体調悪くしそうよね」
「どっかで休憩したいよなぁ、ずっと移動と戦闘できつくなってきたぜ」
「女神様、この辺りに村や町はございませんか?」


グレイスの問いかけに、女神様は首を横に振る。


「昔はこの辺りにも町が幾つかあったはずですが、しかし全て魔王の手に落ちてしまいました。滅びているか、魔王側に与して私達にとって安全とは言えない場所になっているでしょう」


そうなると、早めに野宿しかないだろうか。
ベッドで身体を休めた方が格段に疲れが取れるが、それが期待できないなら長めの休息を取るしかない。
そう思っていると、イーリスが、あっ、と大声を上げた。


「ねえ、あれ、町じゃないかしら」


俺達はイーリスの指差した方向に視線を向ける。
木々が邪魔して見づらいが、確かに屋根や、土地を囲んでいる柵が見えた。


「……ちょっと、近づいてみるか」


俺が先頭で、そろそろとその町と思われる場所に接近する。
木の陰からそっと覗くようにして町を確認するけれど、植物に侵食されている様子もなく綺麗で、家が朽ち果てているということもなく、今もまさに使われている感じがする。
俺達の歩いて来た道は、その町に続いていた。


「もしかして、無事な町なんじゃないか?」
「ジーク、こんな場所に、こんなに綺麗に町が残っているはずがありません。別の道を探しましょう」


女神様が止めてくるが、綺麗な町を見て、中を確認せずそのまま去るのは惜しいと欲が出てくる。


「ちょっと覗くくらいなら大丈夫じゃないか?」
「何か使える物が残ってたり、人がいたら有り難いわよね」
「ジーク、イーリス、いけません、落ち着いて……」
「でもなぁ、女神様、虎穴に入らずんば虎子を得ず、だ。中を見もしないで通り過ぎるのは、冒険者としては難しいんだよなぁ」
「危ないことはしないから、入ってみようよ☆」
「本当にちょっとだけですわ、女神様」


基本的に全員冒険者なので、変な物があるとか、何か良い物が得られそうという状況には敏感だ。
結局俺達は、町の門を潜って中に入っていった。


「さて、人はいるか……」


俺は手近な建物の扉をノックしようと近づいていく。
だが。


「っ、何だ、地震!?」


ぐらりと、立っているのが難しいほどに大きく地面が揺れて、俺は咄嗟に建物の壁に手を突く。
他のみんなも、座り込んで揺れが収まるのを待ったり、木にしがみついたりしている。


一人だけ辺りを見回していたグレイスが、


「皆様、召喚術が発動しておりますわ、お気をつけて!」


と声を張り上げた。


「召喚術……?」
「ボクの召喚術に似てる……でも、何かもっと邪悪なやつが来るよ!」


どこからだ、と警戒していると、俺の目の前に、ベルがエレメントを召喚するときに手元に出す魔法陣、とよく似た物が幾つも現れた。
しかし、どれも黒い線で陣が描かれており、俺でも分かるほどに禍々しい感じがあった。


その魔法陣から、ずるりとモンスターが出てくる。
それも、1つの魔法陣から1体ではない、2体、3体と出てくる。


「うっわ……何か罠があるかもとは思ったけど、町全部が罠かよ」
「マキア、呑気に分析してる場合じゃないわよ! 戦闘準備!」
「へいへい」
「この数を6人で何とかするのは無理だ、深入りしないで、ある程度ダメージを与えて怯ませたら逃げよう」
「ええ、リオン、ジークと私と一緒に前衛、よろしくね」
「うん、任せて!」


いつの間にか地面の揺れは収まっていて、代わりにモンスター達が
俺達は、モンスター達に後ろに回り込まれないような位置に集まると、そろそろ慣れ始めた俺とイーリスが最前線になる陣形に、更にリオンを加えた新しい陣形を作る。
しばらく俺達とモンスター達の睨み合いが続いたが、先に動いたのはモンスター達だった。


先頭にいた、大きな羽虫のようなモンスター、アヴァベルで近いモンスターの名前を挙げるとしたらフライヤーに似たやつが、俺達に向かって飛んでくる。


「はっ!」


俺がスラッシュを繰り出して怯ませたところに、リオンが突っ込んでいって追撃する。


「おおおおっ!」


リオンの渾身の突きはフライヤーに当たり、フライヤーはよろよろと逃げていく。


俺達の陣形が崩れた隙に攻撃しようと、フライヤーとは別の虫のモンスター、バトルビーに似たやつも飛び出してくる。
しかしそれは、イーリスのクロスブレイド、ベルのエレメントの連携が直撃してフライヤーと同じように弾き飛ばされた。


あっと言う間に2体のモンスターを押し返せたが、すぐに次の1体が俺達に飛び掛かろうと構えを取る。
今の俺達の実力では、1体を相手にするのに複数人の連携を取らないと勝ちきれない。
それに対してモンスターの数は多く、ダメージを与えて逃げる戦法を取るのはちょっと厳しいかもしれない、と思い始めたとき、マキアが


「ちょっと道を開けてくれ」


と言うのが聞こえ、俺達はさっと左右に避けた。
すると、マキアが俺達の間を駆け抜け、槍をくの字に振る斬撃、ドライブサイズを繰り出した。
その攻撃はモンスター何体かを巻き込み、ダメージを与える。
モンスター達は怯んで少しマキアと距離を取るが、マキアのドライブサイズはモンスターを倒しきるほどのダメージを出せていない。
援護しないとマキアが囲まれてしまう、と飛び出そうとした俺に、今度はグレイスが


「ジークさん、動かないでくださいませ!」


と叫んだ。


俺が咄嗟に足を止めると、グレイスが


「サンクチュアリ」


と唱え、俺達とモンスターの間の地面に光る円が現れた。


マキアがその円を通過して逃げ戻ってくる。
すると、モンスター達もマキアを追ってこちらに向かって来ようとしたが、光る円を踏もうとした途端に弾き飛ばされた。


「皆様、逃げますわよ!」


その声に、俺達は走り出そうとする。
だが、グレイスがその場に座り込んで、動けなくなってしまっていた。
恐らく今の技はグレイスの魔力をかなり消費する大技だったのだろう。
何とか立ち上がろうとしているが、それを待っている間にサンクチュアリの効果が切れてしまったら今度こそ逃げる手が無くなる。


「グレイス、杖を落とすなよ!」
「えっ? ジークさん?」


俺はグレイスを抱き上げると、みんなに置いて行かれないように必死に走った。


「ジーク、力持ちだねー!」
「かっこいいぜ、ジーク」
「ベルもマキアも、二人とも、ふざけてる場合か!」


俺達は町を出てからも全力で逃げ続け、町が見えなくなるところまで移動してようやく足を止めた。


「はあ……はあ……はあ……っ」
「ジークさん、わたくしは大丈夫ですから、下ろしてくださいませ」
「あぁ……」


無我夢中でグレイスを抱えて走っていたときは気にならなかったが、立ち止まって深呼吸をするうちに、その、申し訳ないけれど、かなり、ずしっときた。
いや、グレイスが悪いんじゃないけど!
女性の重さがどうとかは分からないけれど、アヴァベルではグレイスよりももっと大きなモンスターを狩って安全な場所まで引きずって行ったこともあるし、純粋に、こちらの世界に来て筋力がなくなったせいだ、うん。


と自分に言い訳をしながら、グレイスを地面に下ろす。


「全員、無事だな……?」
「もちろん無事よ」
「僕も大丈夫だよ」
「もぉー、疲れてるのにまた走っちゃったー!」


全く安全な町だとは思ってはいなかったけど、それは廃墟になっているとか、モンスターの巣窟になっているという自然発生的な危険な状況であって、町そのものが何らかの罠だとは思っていなかった。
町に足を踏み入れると感知して召喚術が発動するなんて。


「ですから、私はまともな町は残っていないと申しました」


女神様が、むす、と拗ねたような顔をしている。


「女神様の忠告を聞かなかったのは悪かったけど、あんな使える物が残ってそうな町を見たら無視しにくいだろ。それに、ただでさえ闇の遺跡に行くために大回りしてるんだから、火炎の洞窟に行くのはできれば最短で行きたかったし……」
「そのお気持ちは理解いたしますが……」


女神様はまだ少し拗ねているようだったが、女神の加護を発動すると俺達の疲労を回復してくれた。


「それにしても、町を丸ごと罠にするなんてな……」
「火炎の洞窟に向かう者は、最短で行こうとすればあの町を通過することになるからね。だから、あそこにモンスター召喚の罠を置いて、町に誰かが入ることを発動条件にすれば、そんな危険を冒してまで火炎の洞窟に行こうという者は少なくなる。もちろん、他の道を知っていて、どうしても火炎の洞窟に行かなくてはならないという場合は遠回りしてでも行くだろうけど、それでもちょっとした腕試し気分で向かう者はいなくなるだろうね。そうまでして火炎の洞窟から人を遠ざけようということは、つまりそこに隠したい物があるということだ」
「それが、闇の遺跡への隠し通路だって、リオンは言いたいんだな?」
「うん」


頷くリオンに、女神様は不思議そうな顔をする。


「……リオン、貴方は、火炎の洞窟に来たことはないと言っておりましたね。それにしては妙に、この辺りのことに詳しい気がするのですが。ここは静寂の森を抜け、風の洞窟を抜けないと来られない、精霊族の村から随分と離れた場所ですのに」
「そっ、それは……精霊族の秘密の伝承の一つとして、聞いていたから……」
「それじゃあ、リオンは、さっきの町を通らないで火炎の洞窟に行く方法も知っているんじゃないか?」
「あ、ああ、もちろん。最短で行く方法を諦めることにはなるけれど……西に大回りして、岩場から入るルートがある」


リオンがそう言うと、女神様が


「西側の岩場は少し険しいですよ、今から行っても日没までに超えられるかどうか……」


と難しい顔をする。


「そんなら、岩場の手前まで着いたら今日は野営をして、岩場の突破を目指すのは明日ってことにしないかい。もしくは、岩場の手前まで着いても日が暮れてたら野営の準備ができねぇから、太陽があの辺に来たらその時点でストップ、野営準備に入る」


マキアが槍で空を指しながら提案する。


「太陽があの高さだと、まだ日没まで余裕があるんじゃないか?」
「そうは言うけどな、オレらはどんなモンスターがいるのかちゃんと分かってるわけじゃない、安全に休むために早めに準備した方が良いと思うけどな」
「でも、大回りの大回り、それにさっきの町の戦闘でだいぶロスをしていると思うんだ」
「うーん……じゃ、こんくらいか」


マキアの槍が少し下がる。


「ああ、それくらいが良いと思う」
「じゃ、決まりだな」
「ボクはもうここで野宿でも良いけどねー」
「ベルさん、ここはまだ先ほどの町に近すぎますわ。岩場まで行けないとしても、もう少し離れる必要はありますよ」
「うぅ……」
「つらいなら背負うわよ? レベル1に戻されたって、ベルよりは体力あるから」
「……いい、何か、それはそれで恥ずかしい……」


結局俺達はその場で少し休憩してから、西側の岩場に向けて出発したのだった。

 

 

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